NAFSA2019 ワシントンDC大会

STUDY in JAPANブース出展参加報告(長崎大学)

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NAFSA2019の「STUDY in JAPANブース(日本合同ブース)」に出展した団体より、
長崎大学様に、事前の準備や大会中の活動について、
報告書を執筆していただきました。出展の参考事例としてご覧ください。
※南山大学の報告書はこちらです。
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開催期間:2019年5月26日(日)~5月31日(金)(ブース展示期間は5月28日~5月31日)
場所: 米ワシントンD.C.、The Walter E. Washington Convention Center


5年目のNAFSA参加


 長崎大学は1947年に開学した新制大学の一つであり、旧制の長崎医科大学、長崎高等商業学校、長崎師範学校を母体として成立した。現在では9の学士課程、7の大学院を構え、留学生を含めて1万人弱の学生が学ぶ、中規模の地方国立大学である。
 NAFSAに参加しているのは、そのなかでも最も新しい学部である多文化社会学部(以下、「多文化」と略す)である。「中規模の地方国立大学」であれば当然、大学全体として国際交流に取り組むべきであるが、以下に記すような事情により、本学からは多文化が学部単体としてNAFSAに参加してきた。その多文化は2014年に創設された人文社会系の学部である。その創設準備が始まったのは2010年であるが、折しも「グローバル人材育成」が大学教育のキーワードとして急浮上してきた時期と重なる。こうした潮流を捉えることで、当時「いまさら文系の学部新設など認められるわけがない」と言われていた学部創設が成功したわけだが、そのカリキュラムには当然のように「留学」が大きな位置を占めることになった。


長崎大学ブース

 本学部では一学年定員100人の全員が短期の英語留学に出ることを必須とし、学部生の3~4割程度が1もしくは2セメスター単位の中長期留学に出る。その留学先にふさわしいパートナーはしかし、学部設立当時の長崎大学の協定校リストにはほとんど見当たらなかった。急いで提携先を開拓する必要に迫られて参加を決めたのがNAFSAなのである。最初の参加は2015年であった。
 2019年5月にワシントンDCで開催されたNAFSA2019には、多文化の国際交流委員である教員2名、担当事務職員1名の体制で参加した。


参加の目的、事前準備、バックアップ体制


 NAFSAに参加する目的は、協定校の開拓、協定校との関係の調整、および情報交換・情報収集である。そのための事前の準備は多岐にわたるが、とりわけ面談アポイントメントの調整が重要である。NAFSAに参加し、ブースを構えて、あとはぼーっとお客さんが来るのを待つ、というワケにはいかないのだ。
 アポイントメント調整は、協定校からの参加者の確認と、新規に提携したい大学の洗い出しによって進められる。本学部ではこの業務を、学部に常駐している国際交流ディレクターが担当する。
 予約を入れられるのは一日10件前後であろうか。NAFSAの会期は3日半なので、あらかじめ予約を入れてブースまで足を運んでもらうのは30数件である。また、こちらから相手先のブースに出向くこともある。


パートナー大学との打合せ風景

 面談相手の半分くらいは新規校である。多くの新規校とは初対面なので、お互いの大学の紹介をしあい、どのようなパートナーを探しているのかについて率直な意見交換が行われる。いわばお見合いである。こうした新規校との出会いが必ずしも提携に結びつくというわけではないが、こうしたお見合いがなければネットワークを広げることもできない。「歩留まりは決して高くはないが、でもトライし続ける」という点では飛び込み営業にも似ている。
 アポイントメントを入れた面談の半分は、すでに協定を結んでいるパートナー大学との親睦や調整、協議である。このなかで、これまでの交換実績を確認したり、お互いが引き受けた留学生についての報告をしたり、あるいは新たな企画の提案をする。とくに大事なのは、相手先から寄せられる多種多様な要望をすくい上げることだろう。たとえばヨーロッパの大学生が長崎に半年間留学するとして、どのような履修モデルを想定できるのか、どのような学びが期待されるのか、ということについて、先方の意見に耳を傾け、学内・学部内での調整に生かすことが必要である。


ブース訪問者の対応の様子

 NAFSA会期中は忙しく、ときにはランチを食べる時間すら見つけにくいこともある。面談の合間をぬって、パートナー大学のブースに足を運び、挨拶がてらの訪問をすることも多い。
 なかには、協定締結から時間が経つごとに明らかになっていく大学間のミスマッチを再確認し、「お付き合いはここまで、またいつかお会いしましょう」というような流れが作られることもある。すべてのパートナーと活発な交流活動をまんべんなく展開することはなかなかに難しい。厳選された少数のパートナーとディープな関係を結ぶという交流のあり方も当然「有り」であるが、当方のように、学部生を世界中に送りだそうとするところでは、多様なパートナーと幅広く、長く付き合うやり方を取りたい。国際交流のあり方もダイナミックかつ柔軟に変化させられるようにした方がよいだろう。

 こうしたNAFSA会場でのやりとりを円滑に進めるためには、事前の準備が必要なのは言うまでもない。とくに協定校との面談では、こちらが送り出した学生、引き受けた学生についての情報を手元に用意しておかなければ話も進まない。他方で、会場では必要な情報が手元にないということも多く、長崎にいる担当者との連絡が必要になる局面もあった。2019年のNAFSAが開催されたワシントンDCは日本との間にマイナス13時間の時差があり、即座のレスポンスは望みにくかったが、それでも、大学のほうとやりとりできるバックアップ体制があると心強い。NAFSA会場のネット環境に頼らずに、自前でWIFIルーターを複数用意していったのは正解であった。

NAFSAでブースを構えることの意味


 NAFSAで充実した時間を過ごせたと思っている私だが、じつはこうしたお祭りイベントに参加することの意義を理解するようになったのは、つい最近のことである。いまでは、「これに参加せずに、どうやって交流を広げていくのか」と、NAFSAやAPAIEのようなイベントに出展しない他大学のことを心配するようになっている。
 長崎大学はJAFSAを通じてフルブースの設置を申し込み、カウンター、テーブル、イスを自分たちのためだけに使えるようにしている。ブースの設置にはそれなりの費用がかかるが、ブースを構えるのと、構えない(つまり、カバンをもって会場を常に移動し続けるフリーな参加形式)のとでは、条件がかなり異なると実感している。たとえば、ブースがないと、各所に配るお土産やパンフレット類を置く場所に困る。


ブースカウンターに並べた、大学グッズや小物など

 長崎大学はブースのカウンターに、大学ロゴ入りの折りたたみボールペン、箸セット、絵葉書などの小物のほか、日本で調達した菓子類をたくさん並べたが、通りすがりの人たちが関心を示しては手に取ってくれるので、それをきっかけに多くの人たちと名刺を交換することができた。じつは、ブースを構えること意義の一つがこれである。ブースに常駐していると、いろいろな人が名刺をもって挨拶にやってくる。それは企業だったり、大学だったり、あるいはNGO的な団体の飛び込み営業のようなものなのだが、短時間とはいえ、そうした人たちと言葉を交わし、お互いを紹介し合う機会は有意義である。その出会いがすぐに何かのプロジェクトに結びつくということはないが、世界のさまざまな取り組みを知ることは、大いなる示唆を与えてくれる。


アフターケアの重要性


 面談予定だけで30数件、その他の邂逅も含めて何十枚という名刺を手に入れることのできるNAFSAであるが、ここで知り合ったからといってすぐに覚書や協定の締結に結びつくわけではない。NAFSA会場での面談時間はせいぜい30分弱であり、帰国後のアフターケアこそが重要となる。とくに新規校と協定を結ぶ場合には、詳細な点にいたるまで合意事項を検討し、連絡のやりとりをし、出来れば相互に訪問することが必要となるだろう。長崎大学の場合だと、「NAFSAで知り合った」というだけではパートナーとなるだけの説得材料にはならず、提携の提案が却下されてしまう。
 NAFSAはあくまでも「お見合い」であり、そのあとのアフターケアが大事なのだ。これは教員が片手間で担当できることではないので、当方では学部に常駐する国際交流ディレクターが担当する。


 ところで、冒頭で「学部設立当初、多文化の学生を送り出すにふさわしい協定校は、大学のリストにはなかった」と書いた。その理由は、大学としての国際交流に対する考え方によるものである。それまで長崎大学にいた留学生といえば、「外国人留学生枠」を使って入学してくる私費留学生か、研究目的で来日する大学院生のどちらかが主流であった。日本語プログラムや交換で留学してくる学生もいるにはいたが、それほど多くはなかった。その理由は、長崎大学が学生交流を目的とした協定校の開拓にあまり熱心ではなく、むしろ「協定といえば研究交流だ」という風潮が強かったことにある。じつはこの風潮はいまでも根強くあり、学生交流のみを目的とした協定へのハードルは低くはない。
 しかしながら、グローバル人材の育成を学部のアイデンティティの一つとし、多様な世界へと学生をつぎつぎ送り出したい多文化は、負けるわけにはいかない。
 ひとりひとり個性のある学生を、これまた個性の異なるたくさんの大学に送り出す仕事は難儀である。学部生総数400人、専任教員30名足らずの小さな学部が、単体で取り組むにはあまりにも「身の丈に合わない」事業ではあるが、NAFSAへの参加を通じて切り結んだ交流の網の目が、世界中に広がっている。そのことを励みに、これからも世界中にトモダチ大学を増やしてゆきたい。


報告者:増田 研(多文化社会学部 准教授) / 長崎大学